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第十章 忌み子の姫 終詞 #2
「くだらん」
ゼロは砕けた両拳でひたすら硝子を殴る。
鈍い衝撃が走る。
吸血鬼は驚異的な再生能力を持つ。拳は瞬時に再生しているようだが……、これでは殴る度に拳が砕けていくだけだ。
「巨人の一撃に耐え得ると言うならば、巨人の一撃を越えるまでだ」
その言葉にクレゼントは笑い出した。
「まさか吸血鬼から根性論を聞くことになるとは……。無駄だ。貴様が数百発、拳を振ろうが砕ける事は無い」
その言葉に、今度はゼロが笑い出した。
「くだらんと言ったぞ! 数百発で駄目ならば数千発。それで無理ならば数万発、拳を撃ち込むまでだ」
鈍い音が響き渡る。
拳が潰れ続ける不愉快な振動音に混じって、雨音の様なものが微かに響き出した。
「?!」
音しか聞こえないクレゼントはようやく理解した。
クラインの壷にヒビが入り始めた事に。
唖然とひび割れる音を聞いていたクレゼントは、直ぐに我に返った。
印とタントラを唱える。
その身体が綺麗に吹き飛んだ。
ゼロに気をとられ過ぎていて、アカイの存在を失念していたのだ。
「情けないが牽制はするぞ!」
アカイは死霊をのらりくらりと躱しながら叫ぶ。
ゼロは微笑すると、拳を硝子に叩き付けた。
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