第十二章 凍れる雨夜の星 #2

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ラインフォートは躊躇した。 この少女の行動は微妙に抜けている。 相手に情報を開示し、あまつさえ攻撃チャンスを与えると言うのだ。 正気の沙汰とは思えない。 だが、この馬鹿正直な少女なら十分有り得る事だ。 (まあいい。倒せなかったら逃げればいいだけだ) ラインフォートは鼻で小さく笑った。 「良いだろう。その話にのってやろう」 そう言うと素早く服から 赤い短刀を取り出した。 エノク文字が刻まれた、不可思議なオーラを放つ小振りのフランベルジュだ。 それを見てカナンの表情が強張った。 誰が見ても異質なのは手に取るように分かる。 ラインフォートは邪悪に笑う。 「これは、天翼騎士団が持つ天獄剣のレプリカだ。中に高位存在を封獄して使役する力を持つ。これには天使はいないが……ある魔性が封獄してある」 フランベルジュから淡い白い光りが漏れる。 曲剣の上で素早く印を結ぶと、剣に刻まれた文字が光り出した。 「この中には、月喰いの魔女ハティ・ヴァ――……?」 そこでラインフォートは言葉を止めた。 フランベルジュが無い。 いや剣どころか、構えた両手が消えていた。 「……?」 不思議そうに無くなった両手を眺める。
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