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そこで猫魔道士に会ったなどと、端から見ればふざけた内容としか思えない報告書が上がって来たのを鮮明に覚えている。あまりに常軌を逸した内容なので、詳しく読まなかった物件だ。
「その指輪。それは何か面倒な気配がしてたかな? しまくってたかな? だから、わざと戦うように誘ったんだよ。指輪を使用するのを戸惑わせるために。普通の人なら一目散に逃げてしまうところを、貴方は妙な虚栄心と人を卑下する歪んだ性格が災いしてここに留まらせた。それが貴方の敗因」
カナンは指輪の簡易転移能力に気付いていた分けでは無い。
ただ、それを使わせないように甘い罠を用意しただけだ。
有り得ない戯れ事を。
しかし、ラインフォートは嵌まった。その情報能力の高さと、人を見下すプライドが仇になったと言える。
カナンの性格や気質まで調査して把握していたのが、逆に過信へと繋がったのだ。
「私は分かったの。おやじのように身近な人間の死を、ただ受け入れるなんて堪えられない。私のせいでガルンが死ぬなんて耐えられない。ガルンが死ぬところなんて考えたくも無い」
にっこり笑って刀を振りかぶる。
「だから、ガルンに害が及ぶものは殺す事に決めたの。ガルンに災いが及ぶものを廃除する事に決めたの。それが例え他者の尊い命を奪うとしても。それで私の存在が歪んだとしても」
慈愛に満ちた顔に、冷徹な眼光が相反して混在する。それがラインフォートの網膜に焼き付いた最後の光景だった。
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