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第十六章 這い寄る凶鬼 #2
「怖い顔してどうした?」
「我慢の限界だ。今日も起きていたら……。パリキスの所に押しかける」
「マジかよ! 姫に夜ばいかけるなんて命しらずだな?」
ガルンは冷ややかな瞳でキリエを睨み付けると、無言でその場を歩き去った。
残されたキリエは肩を竦めて、
「冗談って……分かってるよな?」
と、顔を引き攣らせて呟いた。
深夜になり、辺りが完全に静まり返る。
所々にある、焚火の火の粉の散る音と、虫の鳴き声が静謐な夜に彩りを添えていた。
警備に立つ人間も、沈黙を持って辺りを警戒している。
数ある休息用のテントの中で、今だ煌々と明かりが燈っているテントが一つだけあった。パリキスのものである。
テントの周りにはロイヤルナイツ四人、パラディン一人、そして、王宮近衛騎士団の無口な少女、スピカが護衛に就いていた。
テントの入口にガルンが程なく現れると、スピカはけだるそうに入口前に立ち塞がる。
「交代前……夜ばい?」
「……近衛のセンスは、こんなんばかりか」
ガルンは小さく肩を落とす。
「イッツ、ジョ~ク」
そう呟いて、スピカは何故か茫洋にブイサインをした。
ガルンは付き合いきれないと言わんが如く、無視して真横を抜けようとする。
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