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あの短い治癒魔法では、左腕の完治には程遠かったようだ。
「しゃれになんねぇー」
キリエは痛む腕で無理やりガルンを引き上げる。
「おい! パラディン! 治癒魔術、こいつにもかけてくれ!」
傍らで、黒い球体に撃ち抜かれたパラディンに、唯一残った白金騎士団の一人が治療魔法をかけていた。
しかし、そのパラディンの顔色も蒼白である。
「何だ……? これは……」
呻く声にキリエは綺麗な柳眉を寄せた。
「どうした?」
「だ……駄目です。治癒魔術が効きません……。これは……、この傷は魔術では……多分、魔法ではありません」
「なっ……に?」
「何か……別の術式です。 これを治すにはハイプリースト(高僧)以上の術者が必要です」
キリエは愕然と立ち尽くした。
深淵の淵にいるような、軽い損失感に襲われる。
闇夜のただ中、累々たる屍を照らす光は、まるで蓮獄にある炎のようであった。
この戦いでカルジャヤ遠征護衛隊の三分の一が喪失。
これが、冥魔族と呼ばれる侵略者一兵士による被害だと、はっきり認識するのは二日後の事であった。
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