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ガルンは以前、酒場で聞いた話を思い出した。
二十人殺しを押し付けられた、記憶喪失の少年の話を。
「俺には記憶がない。ここでの生活が全てだ。他の生き方は分からない。だから、俺はこの黒鍵騎士団に依存した生き方しか出来ない」
「不満がある……のか?」
「不満もあるのかも分からない。俺にはお前見たいな信念も無く、迷いもない。ただ、坦々と生きる為に人を殺す。それが正しいか迷う理由もよく分からない」
無名の言葉にガルンは沈黙した。
自分はがむしゃらに、復讐の為に早足で生きて来た気がする。
しかし、逆に安寧の為に、ただ毎日を無下に遅足で過ごして来た人間がいる事を、不思議に感じる自分がいた。
無名と名付けられた青年は、ただ自分の居場所を確保する為だけに、黒鍵騎士団に縋って生きて来たと言う事になる。
「罪は償えたのか……? 免罪符は手に入れたのか?」
「それも気にしていなかった。 免罪符を貰って自由になったとしても、俺にはやりたい事など一つも無いからな……」
「うへっ、何それ、バッカじゃねーの」
無名の言葉の後に、背後から罵声が浴びせられた。
振り返る先に、酒と食べ物が入ったバスケットを抱えたネーブルがいる。
その後にはグレイにアカイ、それにアカイにヘッドロックされたフィン・アビスもいるのが珍しい。
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