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(馬鹿な?!)
愕然と、振り向き様に無造作に手で針を掴み取るハリイツを見た。
瞬間だった。
妖虎が猛然と襲い来る。
音波障壁を形勢して、妖虎を弾き飛ばした時には既に遅かった。
その一瞬でハリイツの姿が、視界から消えている。
衝撃は後ろからやって来た。
強力過ぎる一撃は、意識を一瞬刈り取るには十分な威力を誇っていた。
吹き飛ばされた身体が、地面をバウンドして転がりきる頃には、無音陣は解けてしまったらしく、騒音が辺りに響いていた。
混濁する意識を無理矢理取り戻す。
立ち上がろうとして、身体が上手く動かない理由に漸く気がついた。
右腕が根本から吹き飛んでいる。
無意識に右腕でガードをしたらしいが、腕ごと背中を断ち割られたらしい。
背骨も折れたらしく、腰から下の感覚が無い。
「これは……参った」
アビスは顔に張り付けた笑みを崩さずに、何とか左腕のみで身体を仰向けに回した。
これなら立ち上がれずとも、まだ、攻撃は可能だ。
致命傷に限りなく近い。
背中の痛みを感じないのは有り難いが、これでは出血具合が把握出来ない。
ゆっくりと近づく唸り声が聞こえる。
これで出血死と言う選択肢だけは失ったようだ。
見上げる空が微妙に霞む。
冥夢の幻域の影響で、赤く染まる空を恨めしいように眺めた。
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