終章 月の無い空に世界蛇は哭く 壱詞“ユガリウス直上決戦” #2

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(馬鹿な?!) 愕然と、振り向き様に無造作に手で針を掴み取るハリイツを見た。 瞬間だった。 妖虎が猛然と襲い来る。 音波障壁を形勢して、妖虎を弾き飛ばした時には既に遅かった。 その一瞬でハリイツの姿が、視界から消えている。 衝撃は後ろからやって来た。 強力過ぎる一撃は、意識を一瞬刈り取るには十分な威力を誇っていた。 吹き飛ばされた身体が、地面をバウンドして転がりきる頃には、無音陣は解けてしまったらしく、騒音が辺りに響いていた。 混濁する意識を無理矢理取り戻す。 立ち上がろうとして、身体が上手く動かない理由に漸く気がついた。 右腕が根本から吹き飛んでいる。 無意識に右腕でガードをしたらしいが、腕ごと背中を断ち割られたらしい。 背骨も折れたらしく、腰から下の感覚が無い。 「これは……参った」 アビスは顔に張り付けた笑みを崩さずに、何とか左腕のみで身体を仰向けに回した。 これなら立ち上がれずとも、まだ、攻撃は可能だ。 致命傷に限りなく近い。 背中の痛みを感じないのは有り難いが、これでは出血具合が把握出来ない。 ゆっくりと近づく唸り声が聞こえる。 これで出血死と言う選択肢だけは失ったようだ。 見上げる空が微妙に霞む。 冥夢の幻域の影響で、赤く染まる空を恨めしいように眺めた。
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