終章 月の無い空に世界蛇は哭く 壱詞“ユガリウス直上決戦” #2

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フィン・アビスは暗殺者であった。 寂れた農村に生まれたアビスは、幼少から音使いの能力が開花していた。 特に狩りに能力を役立たせ、獲物の位置を音で正確に割り出し、村では重宝される存在になっていた。 しかし、転機はいきなり訪れる。 大飢饉が訪れた村は生活に困窮し、アビスを能力ごと売りに出したのだ。 呆気なく放り出されたアビスに目を付けたのは、とある暗殺ギルドであった。 村人と両親の生きる為に出した答え。 自らが生きる為の結論。 アビスは暗殺者となる事をあっさり受け入れた。 暗殺はアビスの音使いの能力を駆使すれば、たいして難しい仕事ではなかった。 後は、ただひたすらにそれを熟す毎日になる。 殺しの数が三桁に上る頃に、メルテシオンのある枢機卿暗殺を任された。 アビスは王城に入り浸るターゲットを殺す為に城内に侵入するが、王宮近衛騎士団に見つかり捕縛される。 捕まったアビスはガルン同様、死との天秤を迫られて黒鍵騎士団に入団する羽目になった。 それも単純に生きると言う目的で選んだ、簡単な選択。 彼はそうやって、ただ生きる最善の方法を選んで来た。 ただ生きる事の難しさを痛感していたが為に。 突入部隊に志願しなかったのも、単純に生存率で判断した当たり前の選択である。
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