113人が本棚に入れています
本棚に追加
生きるために活きる。
個人の身一つで生きる事になった少年の、選んだ道を誰が間違いと言えるだろうか。
(まさか……貧乏くじを引くとは……ね)
今までの引いて来たくじも、全て当たりだったとも思えない。
明らかなハズレがたまたま巡って来ただけかと思い、アビスは苦笑いを浮かべた。
赤い空に見慣れない影が見える。
生命が死に絶えたこの地に、鳥が生き残っているとは考えにくい。
死神が気を利かせてやって来たのかと思ったが、それは竜の姿をしていた。
そこから舞い降りる影が一つ。
影から雨が降り注いで来た。
いや、水の奔流が。
空から現れた水柱は、妖虎を綺麗に弾き飛ばしたのだが、身体が起こせ無いアビスにはその有様は見えない。
しかし、周りに水の泡が浮き出したのを見て、アビスはそれを起こした少年の正体に直ぐに行き当たった。
「えらくやられたな? 生きてるか」
「まだ、くたばってはいないよ。時間の問題の気もするけどね」
「直ぐにこっちにはライザックが来る。 死ぬのは我慢しろ」
無茶な注文にアビスは顔を綻ばした。
初めて見た時から、自分の前に立つ少年は無茶苦茶であった。
国に個人で喧嘩を売るような破天荒さを持ち、信念の為には自分の命を勘定に入れない。
最初のコメントを投稿しよう!