終章 月の無い空に世界蛇は哭く 壱詞“ユガリウス直上決戦” #2

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生きるために活きる。 個人の身一つで生きる事になった少年の、選んだ道を誰が間違いと言えるだろうか。 (まさか……貧乏くじを引くとは……ね) 今までの引いて来たくじも、全て当たりだったとも思えない。 明らかなハズレがたまたま巡って来ただけかと思い、アビスは苦笑いを浮かべた。 赤い空に見慣れない影が見える。 生命が死に絶えたこの地に、鳥が生き残っているとは考えにくい。 死神が気を利かせてやって来たのかと思ったが、それは竜の姿をしていた。 そこから舞い降りる影が一つ。 影から雨が降り注いで来た。 いや、水の奔流が。 空から現れた水柱は、妖虎を綺麗に弾き飛ばしたのだが、身体が起こせ無いアビスにはその有様は見えない。 しかし、周りに水の泡が浮き出したのを見て、アビスはそれを起こした少年の正体に直ぐに行き当たった。 「えらくやられたな? 生きてるか」 「まだ、くたばってはいないよ。時間の問題の気もするけどね」 「直ぐにこっちにはライザックが来る。 死ぬのは我慢しろ」 無茶な注文にアビスは顔を綻ばした。 初めて見た時から、自分の前に立つ少年は無茶苦茶であった。 国に個人で喧嘩を売るような破天荒さを持ち、信念の為には自分の命を勘定に入れない。
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