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終章 月の無い空に世界蛇は哭く 壱詞“ユガリウス直上決戦” #2
背後に回りながら、アビスはハリイツに纏わり付く妖虎の存在に注視する。
服の袖口から取り出した隠し針は、牽制程度のものとは考えてはいるが、あそこまで見事に弾かれると、ぐうの音もでない。
無音状態での音波高速移動からの投擲攻撃。
今までの相手なら、それを受けて隙ができ、そこに接近して内部破砕の振動攻撃を食らわす手順であった。
それが、あの虎のせいであっさり破られたのである。
ハリイツは背後背後と死角に回るアビスの動きを見て、動きを止めた。
何か口ずさんでいるようだが、無音状態では聞き取れ無い。
しかし、この“無音陣”は魔術師封じの側面を持つ。
言魂が発動キーになる大半の術式は、この中では無力と化す。
例え冥魔族の冥法とて、例外では無いはずである。
しかし、ハリイツが唱えていたのは妖術では無かった。
自らタレントと呼んだ特殊能力“夜叉の花弁”を発露していたのだ。
見開いた瞳に紫色の光が放たれる。
ミヤマハコベと呼ばれる菫に似た、紋章柄が浮かび上がった。
アビスは疑問に思いながらも、死角に回って鋼針を三つ撃ち出す。
投げながらアビスは有り得ない現象を見た。
もともと青白い肌を持つ、冥魔族の身体が赤銅色に変わる。
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