終章 月の無い空に世界蛇は哭く 肆詞“最凶の悪夢”

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闇の中に陥るのは何回目であろうか? 数度となく、死ぬ瀬戸際で闇に沈んでいた気がする。 そこは親しみやすく、意識を手放すには心地好い場所にすら思えて来た。 しかし、今回は違う。 希望では無く、絶望と言う名の光りが心に突き刺さっていく。 混濁した意識の中、カナンの魔剣に刺し貫かれるパリキスの姿が浮かぶ。 (これは現実な分けがない! まやかしだ) 心の中の絶叫。 なんとかチャクラを使って意識を安定させたいが、チャクラを使用する為の精神力が分散してしまっている。 鋼の精神を持つガルンの、現在唯一のウィークポイントに絶妙にフィットした悪夢。 それがガルンの本来の力を抑え込んでしまっている。 闇の中で足掻く姿を見ながら、ナギョクは満足そうに笑う。 ガルン以外のうめき声が聞こえないのは、既に他の人間は術中に陥った為であろう。 「無駄じゃよ。いかに強固な意志を持とうと、“腐海の歌姫”の呪縛は破れわせんわい。どんなに切り捨てたと思う感情も、記憶という大海の中には沈んでいるものよ。記憶に刷り込まれた、強烈な思い出には感情が付き従う。人として生きてきた以上、どう足掻いても切り捨てる事は出来ない。それを揺り動かし、そこから最悪の悪夢を幻想させるわしの力に足掻う事は不可能じゃ。無駄なのだよ。無駄無駄!」 ナギョクの勝ち誇った笑い声が闇に広がる。
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