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「そうでも無いぞ?」
真後ろから聞こえた声に、ナギョクの思考は停止した。
この幻惑の闇の中で、動ける人間はいる筈がない。
胸を灼熱の痛みが襲う。
「……!?」
ナギョクは自分の胸から出ているモノを、マジマジと見つめた。
闇の結界内でも、術者にはそれなりに中の様子は伺える。
突き出ているのは剣の切っ先だった。
何やらぬめって光っているのは、自身の血だ。
「なっ……、なんじゃとぉ?!」
ナギョクは無理矢理首を動かし、背後で剣を突き立てている青年を見つけた。
そこには無名がいた。
特に術中に嵌まった様子も無い無名が。
「悪いが、何やら幻術だったようだが俺には効かなかったようだな?」
微動だにしない表情を見て、ナギョクの顔は怒りに歪んだ。
「ばっ……馬鹿な?! 我が能力を常人が破れる筈が無い! 知性がある以上感情は直結する。この術にかからないのは、理性の無い、本能で生きる獣のような畜生だけだ」
「ご高説痛み入るが、この頭にちらほら浮かぶビジョンが、老体の能力と言う事か?」
「……?!」
ナギョクは大きく目を剥いた。
どうやら、無名には“腐海の歌姫”の力は効いている様である。
「どっ……どう言う事……じゃ?」
老人はそう呟くと、いきなり大量に吐血した。
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