第壱章『目玉のカードの事件と三鬼はじめ』

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 僕は太りたいなぁ。なんて考えを傍らに、二人は寮にむかって歩き続けた。その途中、世間話は途絶えることなく、二人ともローテンションであるのにも関わらず話がよどみなく進む。その様子は、二人の友情を改めて感じさせる光景であった。何時からこれほどまでに仲がいいのかはさておき、心和む一風景だ。  突如、何処からか、誰からか、視線を感じた。つられるように、はじめはその足を止める。感じたのは後ろからだと、背後を見直す。  「どうしたの?」  オリガミが首を傾げながらはじめの顔を覗き込むが、当の本人も不思議そうに後ろを見ていた。この反応的には、オリガミは気付いていないようだ。それもあって、自分の勘違いな気もしてくる。  「いや、なんつーかよ。誰かに見られてた気が……」  自信なく受け答えをする。これが勘違いならそれはそれでいいのだが、不安が拭いきれないのもまた事実。これで気のせいかともやもやするぐらいなら、見に行った方が手っ取り早い。  「お前、先帰ってろ」  言われてオリガミは携帯の時計をみる。  「まぁいいけど。七時ぐらいには帰ってきてよね? ご飯冷めちゃうよ」  「オカンかおめーは。分かってるっつーの」  「性別的にはオトンかな。あはは」  最期までその台詞を聞かずに、視線を感じた方に走り出す。学校から学生寮までの道のりは、一応舗装はされている。しかし、根本的に山中なだけあって、少し道を外れればあぜ道が出来、簡単に奥深い樹海に潜ることが出来る。そんな森の中から視線を感じたと、迷いなく突き進んでいく。中は鬱蒼としており、やや湿気を感じる。 幾ら潜ってもキリが無い闇の中。矢張り気のせいだったかと引き返そうとしたとき。  「三鬼はじめェェエエ!」  そして物語は冒頭に戻る。  ◆  「このカードは一体……」  金髪チャラ男が使っていたと思われる見たことも無い目玉のカード。不審がって恐る恐る手に取るが、持つこと自体は特に害がある訳では無いようだ。見開いた目玉が、自分と目が合う。何処となく気色が悪い。不快に思いつつも、矢張り未知のカードと言うのもあり、関心もあった。  自分にも使えるのだろうか。  ふと、そんなことを考える。
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