季節外れの苺

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「ようやく名前呼んだ。ずっと呼んでくれないから忘れられたのかと思ってたよ」 「そんなわけないじゃん……」 忘れるわけがない。そんなの分かってるくせに。だって私達の名前には特別な意味があるのだから。 「嬉しいよ。美奈子にそうやって名字で呼ばれるの、好きだったんだ」 「ありがとう、私も美奈子って呼ばれるの、好きだったよ」 これは嘘ではない。ミナと呼ばれることが多い中、月森は特別な時だけ私を美奈子と呼んだ。 “月森って綺麗な名前だよね” “そう? それなら美奈子の金星のほうが綺麗じゃん” “どういう意味?” “美奈子って漢字、ヴィーナスって読めるだろ?” そんな付き合いたての頃の会話が思い出される。 天体カップルだね、なんて話をして、二人の中でお互いの名前にも月と星にも特別な意味を持たせていた。 だからこそ、お互いのプレゼントには月や星のモチーフが入ったものを選んでいた。この時計のように。 「やっぱり、俺ら相思相愛じゃん」 「ホントだね」 「なんで別れたかなー」 「軌道が合わなかったのかもしれないねー」 不利な状況には変わりないのに。どこまでが本気か分からない会話を楽しむ余裕が少しだけ出てきた。 呼び方だけじゃなく、このやりとり自体、懐かしいような、新しいような。不思議な感じ。
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