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「軌道が合わない? よくもそんなことが言えるね、美奈子。俺、驚いて何も言えないよ」
私が調子に乗ったせいか、彼は恐ろしいくらい冷ややかな笑顔を向けていた。
相変わらず凄い皮肉だ。
「ホントに月森は去年までのクリスマスは彼女いたの? なんだか信じられないんだけど……」
「は? それ誰に向かって言ってんの? いたに決まってるじゃん、誰かさんと同じで顔で釣れるから」
「はいはい、すみませんね」
もうこれ以上何も言わないほうがいいかも。そう思ったまさにその時。
「でも……」
「ん?」
「ずっと一番印象深いのは美奈子だ。映画の話ができなくなって残念だった、これはマジで」
今までより少しだけ小さな声。
人をさんざんからかった後で小さく本音を言う、この人はそういう人だった。
どこかにしまいこんでいた過去の記憶がまたひとつ蘇った。
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