第一世 一番古い記憶

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 周りを取り囲む男達を見渡し、晁光は下唇を噛む。 これ以上、この身体で大人数を相手に刀を振るう事は無駄な行為だった。 それに、柳月を庇いながらなど動ける筈が無い。 ここは一か八か、男達の目を欺き逃げ切れるか覚悟を決めなければならない。 「……柳月」  ふいに囁くように名前を呼ばれ、柳月は困惑した表情を浮かべると険しい表情を浮かべている晁光の横顔に目を向ける。 「……はい?」  晁光は男達に鋭い視線を向けたまま、そっと左手を伸ばすと柳月の手を握り締めた。 「……絶対に……離すなっ」 その言葉に、柳月は晁光の考えに直ぐさま気付くと、握られた手を握り返す。 「……はいっ」   柳月が返事を返してきたと同時に、晁光は踵を返すと森に向かって走り出した。 正面から向かって来る男を何人か切り倒し、柳月の手を引いて走って行く。 この森を抜ければ、人里に出ることができる。 そうすれば、追っ手は派手に動くことは出来ない筈だ。 それを信じて、ただひたすら走り続けた。 頬を切りつける笹の葉も、行く手を阻む草も刀で蹴散らし、ただひたすら走り続けた。
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