第六世 交わらない魂

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 燃えるような赤い夕日を背中に浴びて、足元から伸びる陰を見詰めていた柳は伏せていた目を上げると目の前のドアを見据えた。 ドアをノックしようと掲げた右手を、一瞬戸惑ったように空中で止めると意を決しドアをノックする。 『はい』 直ぐにドアの向こうから聞こえてきた返事に、柳は一つ深呼吸すると静かに口を開く。 「浅葉です」 そう答えた途端、中から何かが倒れるような大きな物音が響いたかと思うと、勢いよくドアが開き驚きの表情を浮かべた晁光が顔を出した。  唖然としている柳の姿に気付き、晁光は照れ臭そうに頭を掻くとドアを開け放ち部屋の中へと柳を誘う。 「どっ、どうぞっ」  心底嬉しそうに微笑む晁光の姿に、柳は思わず笑みを零すと部屋の中へと足を踏み入れた。 「失礼します」 此処には何度か足を踏み入れた筈だった。 それなのに今日はなんだか雰囲気が違うと感じるのは、昨日までの自分ではないからだろうか。 少しだけ心に余裕があると感じる。 それはきっと、慣れ親しんだ人の居場所なのだと気付くことができたから。
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