第六世 交わらない魂

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 部屋に入った途端、その場に立ち尽くしている柳の姿に、晁光は先ほど倒してしまった椅子を拾い上げると定位置に戻しながら声をかけた。 「いらっしゃいっ。よく来たねっ」 約束通りサークルに顔を出しに来た柳に、思わずテンションが上がる。 こんな些細なことで喜びを感じている自分を照れ臭いと思いながらも、少しでも彼と同じ時間を共有出来る事が堪らなく嬉しかった。 今はまだ、忘れたままでいい。 こうやって自分と同じ時間を過ごしているうちに、いつかきっと前世の記憶を思い出してくれると信じている。 ふと視線を感じ肩越しに振り返ると、無言で自分の姿を見詰めている柳と視線が交わり、晁光は慌てて目を逸らすとコーヒーサーバーへと駆け寄った。 「座ってて。今、コーヒー淹れるから」 カップを手にした途端、背後から伸びてきた手にそれを奪われる。 「あっ」 「僕が淹れるんで、先輩は座っていてください」 そう言いながら、当たり前のようにもう一つカップを用意し始めた柳に、晁光は困惑した表情を浮かべた。 「えっ、あ、でも」  立ち尽くしたまま眉を八の字に曲げている晁光の晁光の姿に、柳は少し困ったような顔をすると手にしたカップを掲げて見せる。 「こういうのも、後輩の仕事ですよね?」  柳に問いかけられ、彼はこのサークルの新入部員だったことを思い出すと晁光は照れ臭そうに頷いて見せた。 「……あぁ、じゃあ……頼もうかな」
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