第一世 一番古い記憶

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 目の前に月明かりが差し込む場所を見つけると、その光に向かって足を進めて行く。 森を抜けた途端、広がった視界には輝く満月と、赤い花を散らすセイヨウサンザシの木が二人を待っていた。  息を切らし晁光が立ち止まると、柳月は晁光の手を離れ導かれるようにセイヨウサンザシの木へと近付いて行く。 その姿に、晁光は目を細めると赤く色づいた花に手を伸ばした。  何度目にしても忘れることのない赤。 それは、どんな赤い色よりも鮮明で、美しい色。 だけど、それに魅了された者はこの輪廻から抜け出す術を無くす。 何年も繰り返し、この花に心奪われた自分たちのようにーーーー。 「……今度こそ、報われるだろうか」  花びらをそっと撫で、呟いた晁光に、柳月は目を細める。  「……晁光」 「もう、これで終わりにしなければ」 自分自身にそう言い聞かせるように視線を向けてきた晁光に、柳月はゆっくりと頷いて見せる。 「ええ。今度こそ……この時代こそ、私達が生きる世」  力強い柳月の瞳に、晁光は微笑むと彼女の頬に触れようと手を伸ばす。 「……柳月」 あと少し……柳月の少し赤みがかった柔らかい頬に指先が触れようとした瞬間、背中に鋭い痛みを感じ晁光は顔を歪めると、ゆっくりとその場に崩れ落ちて行く。 「?! 晁光っ!!」  柳月は目を見開くと、背中に弓矢が刺さったまま地面に横たわる晁光の前に跪いた。 「晁光っ!! 晁光っ!!」  意識が朦朧としながらも晁光は、霞む視界の中に映る柳月の泣き顔に手を伸ばす。 「ゆづ……き?」  自分に向かって力なく伸ばされた晁光の手を握ろうとした瞬間、柳月は追いついた追っ手の男に背後から羽交い締めにされ引き離される。  柳月が離れたのを確認すると、弓を放った男は刀を手に、倒れている晁光の前に立った。 息の根を止めようと男が刀を振り上げた瞬間、柳月は男の手から逃れ晁光の身体に覆い被さる。 「あっ……!!」 右肩から腰まで燃えるような痛みを感じたかと思うと、柳月は小さく声を上げ、そのまま晁光の上に崩れ落ちた。  男が舌打ちするのが聞こえ、次第に足音が遠のいて行く。  晁光は虚ろな瞳で夜空を見上げると、全身に感じる温もりに左腕を回した。 「あ……っ……ゆづ……き……」 (また……”この世”でも……ダメだった……か)
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