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首を傾げている柳へおずおずと視線を向けると、晁光はカップを掲げ苦笑いする。
「あ……いや……これ、砂糖入ってるよね?」
「いえ、ミルクだけですよ」
「えっ」
直ぐさま返事を返してきた柳に、晁光は驚きで目を丸くすると硬直した。
そんな晁光に、柳は一口コーヒーと啜ると再び首を傾げる。
「なにか?」
何でもないことのように問いかけてきた柳に、晁光は戸惑いながら口を開く。
「……なんで?」
「?」
意味が分からないと言った様子で眉を潜めた柳に、晁光は無理矢理、笑顔を作ると明るい口調で言葉を続けた。
「あっ、いやっ……なんで、俺がミルクだけって分かったのかなって」
「…………」
途端、身体を硬直させ口を噤んだ柳に、晁光は脳裏に浮かんだ言葉を振り払うと何事もなかったかのように問いかける。
「なんか、変なこと言った?」
「……いえ。なんとなく、そう思っただけです」
さっきの反応がなかったかのように再びコーヒーを啜り出した柳の姿に、晁光は途端、肩と落とすと目を伏せた。
「……そう、なんだ」
淡い期待を抱いてしまった。
こんな些細な事で舞い上がっている自分が情けない。
これは単なる偶然だと自分に言い聞かせる。
たまたま、柳が淹れたコーヒーが、普段、自分が好む飲み方になっただけの話しだ。
彼が自分の好みを知っていた訳ではない。
彼はまだ、記憶を取り戻してなどいないのだと。
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