第六世 交わらない魂

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そう言って何事もなかったかのようにコーヒーを啜り出した柳を、晁光は信じられないものでも見るかのように見詰めるとテーブルの上についた手を握り締めた。 「っ……俺はっ……」 自分でも驚くくらい、声が震えていた。 はっきりと自分の意志を伝えなければいけないと思うのに、上手く言葉が出て来ない。 そのとき初めて知った。 人は怒りを感じても、身体が震えるものなのだと。 「俺はっ……くだらない事だとは思ってないよっ」 「…………」  レンズの奥から射抜くような視線を向けてくる晁光と視線が交わり、柳は口元に持っていきかけていたカップを下ろすと、じっとその瞳を見詰め返す。 「君がっ……どう思おうと構わないけどっ……俺のことにまで口を出さないでくれないかっ」 感情的になる晁光に目を細めると、柳は静かに口を開く。 「僕はただ、先輩にもっと”今”を楽しんでもらいたいと……」 「余計なお世話だって言ってるんだよっ!」 「…………」 途端、自分の言葉を遮るように声を荒げた晁光に、柳は哀し気に目を伏せると口を噤んだ。 その姿に晁光は我に返ると、慌てて謝罪の言葉を口にする。 「あっ……すまないっ」 「いえ。そうですよね。僕が先輩のやる事に対してとやかく言う資格ないです」 そう言って腰を上げた柳の姿に、晁光は慌てて席を立つと柳へと近付いて行く。 「違うんだっ……そうじゃなくてっ」
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