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なぜだか怖い顔をして訴えてくる晁光の姿に、衛は首を傾げると再び窓の外に目を向け誰が見てもデートであろう光景に苦笑いする。
「いや、明らかに”彼女”とデートだろっ? あの幸せそうな顔見ろよ。ラブラブじゃーんっ」
「っ……!」
衛の言葉を聞いた途端、晁光は勢いよく席を立つと、鞄を鷲掴み出口へと向かった。
「おいっ、晁光っ? 何処行くんだよー?!」
店を出る直後、背後から衛の焦った声が聞こえてきたが、それに構っている余裕などなかった。
(柳月っ!!)
心の中で彼女の名を叫びながら、さっき二人の姿を見た場所へと急ぐ。
見間違いであって欲しいと切に願いながら、必死で彼女の姿を探し求めた。
(デートだなんて、そんな訳ない。付き合っている女性がいるなんてそんなこと……?!)
そう自分に言い聞かせながら周りを見渡し、見覚えのある男女の姿を見つけ晁光は足を止めた。
「……っ……ゆづ、き?」
目と鼻の先にいる男女二人は、ショーウインドウの中を覗き込み楽し気に会話を交わしている。
男性の顔を確認したいが、手前にいる女性の陰に隠れよく見えない。
もどかしさに、晁光が足を一歩前に踏み出した途端、振り返った男性が隣にいる女性に笑いかけた。
「……あっ」
そのは、紛れもなく愛しい人の横顔だった。
ようやく出逢う事ができた、この世での愛する人の笑顔。
だけど、それは自分に向けられたものではない。
こんなに近くにいるのに、その笑顔は、彼女が決して恋などするはずのない相手に向けれていた。
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