第七世 君がいない世で君を想う

12/13
前へ
/140ページ
次へ
「っ……!」 不意に身体の奥底から今までにない感情が湧き上がるものを感じ、晁光は拳を強く握り絞めた。 目の前では、互いを見詰め合い微笑む男女の姿がある。 気付いたら、足が勝手に動いていた。 一秒でも早く、この場から離れたいと。 「もう行っちゃうんですか?」 背後から柳の声が聞こえ、晁光は前に出しかけていた足を止める。 だが、振り返る勇気はなかった。 今、自分がどんな顔をしているのか分からないから。 「っ……ごめんっ。俺、用事あったんだっ」  慌ただしくその場を去って行く晁光の姿を、衛は呆れたように見詰めるとレナへと声をかける。 「慌ただしいヤツだなぁ。ごめんねレナちゃん」 「いいえっ」  何事もなかったかのように再び世間話を始めた衛とレナを他所に、柳は次第に遠ざかって行く晁光の背中を見えなくなるまで見詰めていた。
/140ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67人が本棚に入れています
本棚に追加