第二世 神の悪戯

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「お帰り。帰国は今日だったか?」  落ち着きはらった兄の態度に、女は足を止めると一瞬、目を見開く。 思わず取り乱してしまった自分を恥じると、女は静かに口を開き始めた。 「お兄様が結婚すると……お父様から文をいただきました」 「……そうか。それでわざわざ?」 申し訳なさそうに眉を八の字に曲げた兄に、気を遣わせまいと小さく笑んで見せる。 「お兄様の晴れの舞台なのに、悠長に留学なんてしていられませんわ」 「それは悪かったな。早く妻を迎えたくて私が急かせてしまったものだから」 そう言いながらはにかんだ兄の顔を見た途端、女は顔を歪めるとぽつりと呟いた。 「……嘘」 「…………」  彼女の一言で、さっきまで涼やかな表情を浮かべていた男の顔が、悲痛で歪んだ。 その途端、二人の間で作り上げた”兄妹”とゆう虚像が壊れてゆく。 兄妹として生まれ変わってしまった晁光と柳月が、この世を生きて行くために下した決断は、もろくも彼女のたった一言で本来の二人の姿を暴いて行く。
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