第三世 数年の時を得て、現世で二人は巡り逢う

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 道沿いに植えられた植物達が次々と花を咲かせ始める頃、とある大学のキャンパスでは、まだ幼い顔つきの新入生達が心躍らせ大学の門を潜り抜ける。 校舎に続く道から少し反れた場所に、一本だけ、世を阻むようにひっそりと一本のセイヨウサンザシの木が佇んでいた。  騒がしい喧噪から離れ、一人の男がその前で足を止める。 大学3年生になった日向晁光-ひゅうがあさひ-(21)は、手を伸ばすと、赤く色づく花びらに触れる。 「……今年は、少し早いな」 セイヨウサンザシが花を咲かせるこの時期、普通ならば開花していも可笑しくはないだろう。 だが、日陰に一本だけ植えられたこの木は、いつも忘れた頃に花を咲かせ、人知れず散って行く。 毎年こうして花が咲いているか確かめに来る人間は、もしかしたら自分だけかもしれないと、晁光は皮肉の笑みを浮かべた。 初めてこの場所を知ったとき、引き寄せられるようにこの木の前で足を止めた。 深紅の花を咲かせるこの木を愛おしいとさえ思う程、暫くその場から離れることができなかった。 理由は一体なんなのか。 そんなこと幾度となく考えたが、結局、答えは出ないまま今にいたる。 そして、今年もまた引き寄せられるように自然と足が向いていた。 もう何年もこうして、この花を見続けているような感覚に、懐かしさと切なさが込み上げる。  掌の中で色づく花に目を細めると、晁光はそっとその場を後にし胸元のポケットに引っ掛けていた眼鏡を取り出し掛けた。  今日は新入生がこの大学に入学して来る日だ。 こんな所で油を売っている訳にはいかないと、キャンパスに向かって晁光は足を速めた。
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