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「いやっ……まぁ……もう少し身だしなみとかちゃんとすれば……そのぉ……」
必死で自分の良い所を探している柳に、晁光は吹き出すと声を上げる。
「気を遣わなくていいってっ。自分でも分かってるから」
その言葉に柳はあからさまに安堵した表情を浮かべるも、愉快そうに自分の様子を伺っている晁光に気付きばつが悪そうに目を伏せた。
「……すいません」
媚びる事をしない柳に、やはり好感が持てた。
晁光は右手を差し出すと笑みを浮かべる。
「よろしく。浅葉君」
「あっ、はいっ。よろしくお願いしますっ」
「?!」
焦った様子で柳が自分の手を握った瞬間、電気が走ったような衝撃を感じ、晁光は驚いて手を離す。
自分の掌を見詰めたまま硬直している晁光に、柳は不思議そうに首を傾げる。
「……日向先輩?」
柳の言葉に我に返ると、晁光は痺れている右手を左右に振り苦笑いした。
「……あっ……いやっ……今、静電気凄かったからビックリしちゃって」
そんな晁光の言葉に、柳は怪訝な表情を浮かべると自分の右掌を見詰める。
「静電気? そんなの発生しました?」
「えっ……」
唖然としている晁光を余所に、柳は腕時計に視線を落とすと慌ててその場を去って行く。
「じゃーオレ、行きますねっ」
「あ……うん」
「…………」
一人その場に取り残された晁光は、再び電気が走ったように痺れた掌を見詰めると眉を潜めた。
(なんだったんだ……今の……)
彼の手を握った瞬間、手の痺れと共に、脳裏にある光景が浮かんだ。
霧がかかったように曖昧だが、赤い花びらが空を舞う。
今までも何度も見た事のある夢だった。
そして、花びらが舞う向こうに見える人影。
それが誰なのか、未だに分からないままだけどもーーーー。
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