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不意に隣の空気が揺れ、顔を上げた晁光は、まるでセイヨウサンザシに引き寄せられるように近付いて行く柳の姿に困惑した表情を浮かべる。
「浅葉君?」
柳の行動に戸惑いながらも後を着いて行くと、彼はセイヨウサンザシの前で足を止め赤い花に目を細めた。
「なんか……見た事ある気がする。この光景」
「?」
晁光が怪訝な表情を浮かべるも、柳は漂う香りを思いっきり胸に吸い込むと瞼を閉じる。
「この……花の香り……」
甘いような、でも少し切ないような、いつまでも嗅いでいたいと思わせる神秘的な香りに柳は酔ったように口元を緩ませる。
そして、ゆっくりと瞼を開けると深い黒の瞳が大きく揺れた。
「懐かしくて……泣きたくなる……」
「!!」
潰れそうな声で囁いた柳の姿に、晁光は大きく目を見開くと震える唇を動かした。
「……”柳月”」
途端、二人の間を強い風が吹き抜け赤い花びらが宙を舞う。
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