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柳はゆっくりと晁光に顔を向けると不思議そうに首を傾げた。
「……えっ」
風が収まり花びらが地面へと散って行くと、晁光は我に返り無意識に口にした言葉を取り消すかのように口元に手を当てる。
「あ……いやっ……」
(なんだ……今の……)
赤い花びらが舞う中、佇む柳の姿に夢で見た女性が重なったような気がした。
儚い笑みを浮かべ、自分に向かって手を伸ばす懐かしい人……。
「じゃあ、オレはここでっ」
不意に弾むような声が聞こえ、晁光は慌てて柳へと顔を向ける。
柳はさっきの出来事がまるでなかったかのように無邪気な笑顔を晒していた。
「あっ……あぁ。気をつけて」
柳は晁光に向かって軽く会釈すると踵を返す。
「先輩もっ」
「…………」
小走りでその場を去って行った柳の姿を目で追いながら、晁光は先ほど見た光景を忘れられずにいた。
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