第一世 一番古い記憶

3/10
前へ
/140ページ
次へ
 曖昧だが頭の中に残る晁光と過ごしてきた記憶に、柳月が想いを巡らせていると、前に出しかけた足が縺れ鼻緒が切れる。 「あっ……」 「柳月っ?」  前のめりになった柳月の身体を慌てて抱きとめると、晁光は跪き、土で足袋が汚れた柳月の右足を膝の上に乗せた。  柳月は足元に落ちている鼻緒が切れた草履に視線を落とすと眉を潜める。 「鼻緒が……」 「…………」  壊れた草履を手に一瞬、考え込んでいた晁光だったが、それを着物の懐に仕舞うと柳月に向かって背を向ける。 「乗ってっ」  自分を背負おうと背中を差し出す晁光に、柳月は困惑した表情を浮かべると声を上げた。 「でもっ」 「早くっ」 切羽詰まった晁光の声に、迷っている暇はないと、柳月は両腕を晁光の首に回すと背中に股がった。 「はいっ」  晁光は柳月を背負うと再び森の奥に向かって走り出す。 ここで追いつかれる訳には行かなかった。 再び出逢うことができた現世で今度こそ、この想いを全うしなければと。
/140ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67人が本棚に入れています
本棚に追加