第四世 前世を捨てた君

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 何か見えない力に手を引かれるように、柳は一歩ずつ前へと足を進めて行く。 木々が生い茂り日の光もまともに入って来ない薄暗い場所なのに、足は迷う事なく前へと向かう。 自分の意志とは関係なく突き進んで行くことに不安を覚えながらも、ふいに立ち止まった足に柳は恐る恐る顔を上げた。 「?! ……これって……?」 途端、目の前に現れた見覚えのある一本の木に、柳は驚いて目を見開いた。 「以前、話したセイヨウサンザシの木だよ」 背後から晁光の柔らかな声が聞こえ、柳は肩越しに振り返る。 「……こんな所に一本だけ?」  まるで自分が一人、この場に取り残されてしまったかのように、哀しそうな顔をして問いかけてきた柳に、晁光は目を細めるとセイヨウサンザシへと目を向けた。 「たぶん、知ってる人は俺だけじゃないかな。こんなとこに咲いてるなんて普通なら誰も気付かない」 そう、自分以外、誰もこの場所を知らないと思っていた。 知っていても、きっと興味など保たないだろうと。 だから、少し驚いている自分がいることに気がついた。 思わぬ柳の行動が、晁光の胸をざわつかせる。  込み上げてくる切なさに晁光は眉を潜めると、そっと胸に手を当てた。 なぜこんな気持ちになるのか、理由など分からない。
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