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「……呼ばれた気がした」
ふいに聞こえた消え入りそうな声に、晁光は我に返ると柳へと視線を向ける。
「えっ……」
柳は一歩ずつセイヨウサンザシの木に近付いて行くと、赤く色づく花に瞳を潤ませた。
「お前が呼んだの?」
「……浅葉……君?」
柳の行動に晁光が戸惑っていると、その声が聞こえないかのように柳はそっと手を伸ばすと赤い花に触れた。
「独りで寂しかったの?」
そう、柳が花に語りかけた瞬間、何処からともなく強い風が二人の間に吹き荒れる。
「?!」
舞い上がる落ち葉に、晁光は慌てて両腕を自分の顔の前に掲げると、腕の隙間から目を細めた。
赤い花びらが舞う中、そこに佇む柳の姿を目にした途端、身体中に電流が走ったような衝撃に見舞われる。
「……”柳月”」
自分の意志とは関係なく、ごく自然に、その名前を口にしていた。
そして、思い出した。
この名前の意味も、何度も夢に見たこの光景も。
この瞬間を、ずっと待ち望んでいたのだと……。
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