第五世 蘇る記憶

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 一心不乱に、自分の身体を掻き抱く晁光に、柳は当惑していた。 普通なら突然、同性に抱きつかれたら嫌悪感を抱くだろう。 突き飛ばしてでも、身体を拘束する腕から逃れようと暴れる筈だ。 だけど、まるで恋い焦がれた人に、やっと出会えたかのように縋ってくる晁光を、突き放すことなどできなかった。 後頭部を抱き寄せる彼の手が、微かに震えている。  戸惑いながらも、晁光の背中に回そうとした両腕を上げかけ、柳は再び痛み初めた頭に眉を潜めた。 頭痛とともに次第に息苦しくなってくる。 宙で止まった手で晁光の腕を掴むと、思いきって自分の身体から引き離す。 「あのっ……先輩……やめてっ……くださいっ」  切羽詰まったような柳の声に、晁光は我に返ると、ゆっくりと後ろへと後ずさった。 「!! ごめんっ」  正気に戻った晁光に、柳は乱れた呼吸を整えるとはにかんで見せる。 「……いえ」 呆然としている晁光に、気付き柳は戸惑いながら声をかけた。 「あの……大丈夫ですか?」  心配そうに瞳を覗き込んでくる柳の姿に、晁光は目を細めると、再び手を伸ばしたくなる衝動を抑える。 「あぁ……大丈夫」 今は、そう応えるしかなかった。 まだ、前世の記憶を取り戻していない”柳月”に、何を言っても無駄だと分かっていたから。  険しい表情を浮かべ何かを考え込んでいる晁光に、柳は居たたまれなさを感じ踵を返す。 「じゃあ……オレ、帰ります」 「明日も待ってるからっ」 晁光の言葉に、柳は肩越しに振り返ると首を傾げる。 「?」  困惑しているだろう柳に、晁光は何度も交わした逢い引きの約束を思い出し微笑んだ。 「あの部屋で……待ってる」  儚い微笑みを浮かべ立ち尽くす晁光の姿に、胸がざわついた。 それでも、その意味が分からず、柳は眉を潜めると小さく頷き踵を返した。 「……はい」
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