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一心不乱に、自分の身体を掻き抱く晁光に、柳は当惑していた。
普通なら突然、同性に抱きつかれたら嫌悪感を抱くだろう。
突き飛ばしてでも、身体を拘束する腕から逃れようと暴れる筈だ。
だけど、まるで恋い焦がれた人に、やっと出会えたかのように縋ってくる晁光を、突き放すことなどできなかった。
後頭部を抱き寄せる彼の手が、微かに震えている。
戸惑いながらも、晁光の背中に回そうとした両腕を上げかけ、柳は再び痛み初めた頭に眉を潜めた。
頭痛とともに次第に息苦しくなってくる。
宙で止まった手で晁光の腕を掴むと、思いきって自分の身体から引き離す。
「あのっ……先輩……やめてっ……くださいっ」
切羽詰まったような柳の声に、晁光は我に返ると、ゆっくりと後ろへと後ずさった。
「!! ごめんっ」
正気に戻った晁光に、柳は乱れた呼吸を整えるとはにかんで見せる。
「……いえ」
呆然としている晁光に、気付き柳は戸惑いながら声をかけた。
「あの……大丈夫ですか?」
心配そうに瞳を覗き込んでくる柳の姿に、晁光は目を細めると、再び手を伸ばしたくなる衝動を抑える。
「あぁ……大丈夫」
今は、そう応えるしかなかった。
まだ、前世の記憶を取り戻していない”柳月”に、何を言っても無駄だと分かっていたから。
険しい表情を浮かべ何かを考え込んでいる晁光に、柳は居たたまれなさを感じ踵を返す。
「じゃあ……オレ、帰ります」
「明日も待ってるからっ」
晁光の言葉に、柳は肩越しに振り返ると首を傾げる。
「?」
困惑しているだろう柳に、晁光は何度も交わした逢い引きの約束を思い出し微笑んだ。
「あの部屋で……待ってる」
儚い微笑みを浮かべ立ち尽くす晁光の姿に、胸がざわついた。
それでも、その意味が分からず、柳は眉を潜めると小さく頷き踵を返した。
「……はい」
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