第五世 蘇る記憶

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~ セイヨウサンザシの花が咲き乱れる丘の上。  晁光は掌に乗った赤い花びらに目を細めると、愛しい人が来るのを今かと待ちわびていた。  ふいに強い風が吹き、それが合図だと気付いた晁光は、ゆっくりと振り返ると視線の先に立ち尽くす愛しい人の姿に顔をほころばせる。  黒髪が美しい柳月の瞳は、真っすぐに晁光を捕らえると一歩一歩足を進めて行く。  それに釣られ晁光も足を踏み出すと柳月に向かって手を伸ばした。  彼女の柔らかくきめ細やかな頬に触れる。  晁光の手を愛おしむように頬を擦り寄せた柳月は、潤んだ瞳を向けてくる。  その瞬間、柳月の顔が柳へと変わる。  それでも、もう晁光は驚くことはなかった。  柳は柳月なのだから。  熱い視線を向けてくる柳に、晁光はそっと唇を寄せる。  再び強い風が吹き、二人の姿は花びらの渦の中に隠された。~
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