第一世 一番古い記憶

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 話し合いなど無意味な状況に、晁光は息を呑むと周りを取り囲む武装した男達の出方を伺う。 連れ去れた娘を取り返すため、柳月の父親が仕向けた自分への死客は、きっと容赦なく切り掛かってくるだろう。 そうなれば、こちらも戦わない訳にはいかない。 こんなところで柳月を一人残して死ぬ訳にはいかないのだから。  じりじりと迫り来る男達から、柳月を背に隠したままゆっくりと後ずさると、柄を掴み一気に刃を引き抜く。 その瞬間、男達が少し後ずさるのを見計らい、晁光は柳月に声を上げた。 「先に逃げろっ」 「でもっ」 躊躇する柳月に背を向けたまま、晁光は声を荒げた。 「直ぐに追いつくっ!! ”あの場所”で待っててくれっ!!」 「……っ……!!」  晁光の言葉に、柳月は瞳に涙を浮かべると、毎世、晁光と出逢うセイヨウサンザシの木を思い出し踵を返した。 今、自分に出来る事は、あそこで晁光のことを待つことしかできない。 きっと自分の元に戻って来ると信じてーーーー。
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