第五世 蘇る記憶

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 ふと右の掌を開き、何度も握った彼女の手の感触を思い出す。 柔らかくて温かくて優しくて……儚い温もりを。 それを再び感じることができるなど、昨日までは思いもしなかった。 いや、思い出せていなかったのだ。 何度も顔を合わせていたはずなのに、記憶が蘇らなかった。 「……………?」 広げた掌を握り締めると、晁光は眉を潜める。 記憶を取り戻すまでは気付かなかったが、ここで疑問が浮かび上がった。 なぜ、この歳になるまで出逢わなかった? なぜ、出逢った瞬間、思い出さなかったのだろう? 今までは、晁光が19の歳を迎える頃には柳月に出逢い、記憶を取り戻していた。 それなのに、今回は出逢いも遅ければ記憶も直ぐには戻らなかった。 それに、彼女はまだ思い出していない。 自分のことも、過去の出来事も……。 「……っ……なんで?」 誰へともなく問いかけると、晁光は重たい腰を上げた。 窓辺へ移動し、そこから見えるセイヨウサンザシの木を見詰める。 「なんで……まだ記憶が戻らない?」 セイヨウサンザシの木に、夢に現れる柳月の姿を重ね、晁光は切な気に訴えた。
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