第五世 蘇る記憶

8/36
前へ
/140ページ
次へ
 夕日が差し込むキャンパス。  真っ赤に染まる太陽に目を細めていた柳は、ゆっくりと首を動かすと目の前にあるドアに視線を向けた。 ”ミステリー研究サークル”と明記された古びたプレートを見詰め、眉を潜める。 ドアノブに手をかけては開けるのを躊躇していた。  昨夜、またあの夢を見た。 高価な着物を身に纏った自分は、裾が汚れるのも長く美しい黒髪が乱れるのも気にせず、ただ一心不乱に林の中を駆けて行く。 赤い花が舞う丘の上に辿り着いたとき、いつものように一人の男性が待っていた。 総髪をなびかせ、愛おしむようにセイヨウサンザシの木に手を当てている姿に、胸が焦がれるような感覚に落ち入った。 ゆっくりと、こちらに向かって振り返った男性の顔は、いつも霧がかかったようにぼやけていて判別できない。 だけど、自分に向けられる視線が、とても優しいものだということは間違いなかった。 恋い焦がれる優しい瞳ーーーー。
/140ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67人が本棚に入れています
本棚に追加