第五世 蘇る記憶

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 男性が一歩一歩、近付いてくる度、胸の鼓動が早くなる。 頬に触れられた途端、溢れそうな愛おしさで目頭が熱くなる。 次第に縮まる距離に、瞼を閉じなければと思うのに、いつまでも顔の見えない彼を見詰めていたいと思った。 瞼を閉じたら最後、もう逢えなくなってしまうのではないかと……。  唇が触れ合う瞬間、二人の間に強い風が舞う。 思わず瞼を閉じ恐る恐る目を開けた先には、彼は消えずにそこに居てくれた。 表情など分かる筈もないのに、目の前の彼は照れ臭そうに眉を八の字に曲げて微笑んでいる。 そのとき、ようやく彼の顔がはっきりと見えた気がした。 切れ長の目を細め、少しだけ口角を上げている薄い唇に見覚えがある。 それが誰なのか気付いたとき、柳は驚きとともにショックを受けた。
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