第五世 蘇る記憶

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 レンズ越しに覗く、晁光の瞳が何かを問うように揺れる様に、柳は目を見開くと息を呑んだ。 昨日までは感じなかった胸の疼きに、戸惑いを感じ目を伏せる。 「……別に」 これ以上、晁光と瞳を見詰めていたら、何か良からぬことを思い出してしまいそうな不安を覚えた。 知りたいと思う反面、思い出してはいけないのだと心が警告する。  俯いたまま身体を固くする柳の姿に、晁光は目を細めると落胆したように身体を後ろへと引いた。 もっと、他に柳の口から確信的な何かを聞けるのではないかと期待が膨らんだ分、これ以上の情報は得られないのだと知ったショックは大きい。 柳はまだ、自分のことを少しも思い出せていないのだとーーーー。 「……そう。そうか……」  まるで己自身に言い聞かせるかのようにぽつりと呟いた晁光に、柳はおずおずと視線を向ける。 さっきまでの勢いはどうしたのか、目の前にいる彼は、なぜか哀しみに打ちひしがれたように項垂れていた。
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