第五世 蘇る記憶

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 沈む夕日がキャンパスを真っ赤に染める。 柳は一人、そんな夕日を見詰め立ち尽くしていた。 本当なら、先日、入部したばかりのサークルに顔を出していなければいけない時間帯だ。 超常現象やミステリーに関して、それほど興味がある訳ではないが、ここ最近、眠りを妨げている例の夢をどうにかしたいと思っていた。 決して悪夢ではないその夢は、なぜだか自分を酷く悩ませる。 夢の中で、いつもあの男性に出会う度、今まで感じたことのない感情に、心を乱される自分がいた。 彼に出会う度、何か大事なものを忘れているような気持ちになる。 とても大事なことなのに、それを知りたくない。 そんな矛盾を感じるようになったのは、現実の世界で彼に出会ってからだろうか。 眼鏡の奥に隠された、切れ長で美しい瞳。 その瞳が自分に向かって、何かを訴えるように細められるようになったのは、キャンパス内にひっそりと佇むセイヨウサンザシの木を二人で見たときからだろうか。 あの日から、何かが変わり始めていた。 平凡な大学生活を送るはずだった自分の人生が、少しずつ狂いだしたとーーーー。
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