第五世 蘇る記憶

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 ”ミステリー研究サークル”部屋前。  ノートを片手に暫く立ち尽くしていた柳は、既に何度も吐いた溜息を再び口から吐き出すと、恨めしそうにドアを見詰めた。 ドアをノックしようと掲げていた腕が、そろそろ痺れて来た。 それを言い訳に腕を下ろすと、そっと身体の向きを変える。 やはり、今日はやめとこうと思った。 ノートなら明日にでも返せばいい。 今は、どうしても彼に会いたくはないと。  夕日か濃くなって来た空を見上げ、そろそろ帰ろうと足を前に一歩踏み出す。 その途端、何処からきたのか一瞬強い風が舞い、柳の頬を撫でて行った。 「?」 その感触に思わず頬に手を当てる。 まるで優しい温もりに触れたかのような感触に、思わず風が吹いてきた方へと顔を向けた。 「…………」 そこは、以前、晁光に教えてもらった場所。 なぜだか懐かしさを感じる、セイヨウサンザシの木がある場所へと続く道なき道。 自然と足が向いていた。 理由など分からない。 ただ、足が前へと進むのだ。 まるで道に迷ってしまった自分を誘うかのように、セイヨウサンザシがある、あの場所へとーーーー。
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