第五世 蘇る記憶

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 物思いにふけり、何かを確かめるように唇に指を這わせている晁光の姿に、柳は目を細めると手にしていた彼の眼鏡を差し出した。 「眼鏡、落ちてました」  差し出された眼鏡の存在に気付き晁光は我に返ると慌てて重たい腰を上げた。 「あ、ありがと。いつからいたの?」 「つい、さっきです」 眼鏡をかけ鮮明になった視界に、はっきりと柳の姿が映る。 自分に向かって小さく笑む彼の姿に、何処か違和感を感じながらも、晁光は照れ臭そうに視線を逸らすと寝癖がついているだろう後頭部を掌で撫でた。 「起こしてくれれば良かったのに」 「気持ち良さそうに寝ていたんで、起こしたら可哀相かなって」 なぜだかいつもと柳の口調が違うような気がして、晁光は思わず視線を向ける。 柳は相変わらず自分に向かって優しく微笑んでいた。 昨日までの彼とは違う、そんな気がした。 今、自分を優しく見詰めている彼の目は、さっきまで夢に見ていた柳月の眼差しそのものだと。 もしかしたら……そんな予感がして、晁光は息を呑むと確かめようと柳に手を伸ばす。 「……あ……あの……」 だが、柳に向かって伸ばされた手は、彼に触れることなく宙中を掴む。 「じゃあ……”ボク”はそろそろ帰りますね」 まるで自分の手に捕まるのを恐れるように身を後ろに引いた柳に、晁光は一瞬唖然とすると淡い期待を抱いてしまった自分を鼻で笑った。 つい夢で見た柳月を現実の彼の姿に重ねてしまった。 ようやく、失っていた記憶を取り戻してくれたのではないかとーーーー。
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