第五世 蘇る記憶

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だが、現実はそう上手くはいかない。 夢の中の彼女と今、目の前にいる彼女は自分が知っている柳月ではないのだと。 「あぁ……うん」  肩を落とした晁光を一瞥すると、柳は哀し気に目を伏せる。 そして、さっきのことがなかったように再び笑顔を晁光に向けると、衛から渡されたノートを差し出した。 「これ、星野先輩から預かりました」 「あぁ、ありがとう」  ノートを受け取る瞬間、ほんの少しだけ互いの指先が触れ合う。 「?」 その途端、以前感じた衝撃とは違う、何か温かいものが指先から流れてくる感覚に、晁光ははっとすると柳の顔を見詰めた。 「じゃあ」 だが、何事もなかったかのように背を向けた柳に、晁光は困惑した表情を浮かべると思わず呼び止める。 「あ、待ってっ」  晁光の声に、足を前に出しかけていた柳は動きを止めると、背を向けたまま静かに口を開いた。 「……はい」  呼び止めたのはいいが、自分とは違い何も感じていない柳の様子に、晁光は戸惑い言葉を詰まらせる。 「あの……その……明日は、サークルに来れるかな?」 本当に聞きたいことは他にもあったが、口から出た言葉は当たり障りのない問いだった。 何も感じていないだろう柳に、自分に触れて何かを感じたかなどと聞いて、また避けられるのはご免だ。 もう、これ以上距離を広げたくない。
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