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「親に何も言われなかった?」
紙パックにストローを差して口をつける私は、目を上向かせると、テーブルを挟んで正面に座っている馬木くんを見てキョトンとする。
「家に帰らないで、そのまま俺んち来たじゃん。何も言ってないの?」
「け、恵子ちゃんの家にお呼ばれしに行くって、伝えてあります」
「あぁ、それなら心配しないか」
紙パックをテーブルの上に置いて、ポリポリと頬を掻く。
本当は、お母さんにバレてる。
初めて馬木くんと電話した時、うっかり名前を呼んでしまって、あれで勘付かれたんだと思う。
今日の朝、『“馬木くん”のところでしょ?』と顔をニンマリさせたお母さんに見送られたなんて、恥ずかしくて言えない。
「映画借りてきたよ。適当に洋画と、ランキング1位にあったアニメと、あと――」
ホラー、と馬木くんの口から出た瞬間、自分の顔が強張るのが分かった。
「あ、やっぱり苦手だった? だと思った」
「そ、そう思ったんなら、借りてこないで下さいよ」
「え。だって、ホラーはお決まりだろ?」
お決まりなんですかぁ?と、眉をハの字にしてなんとも情けない声を出す。
「私……カレー作ります」
肩を落として立ち上がると、後ろで笑い声が聞こえた。
部屋には私しかいないのに、馬木くんは笑ってる。
今までは“お好きにどうぞ”という感じで、近くにいるのに遠かった。
でも今日は、一緒に観ようってDVDを準備してくれている。
今なら、苦手なホラーでもなんでも観られる気がするよ。
みるみるやる気が起こって、フン、と胸の前で拳を作った。
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