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流し台の照明から垂れた紐を引っぱると、薄暗かった廊下がパッと明るくなる。
厚手の生地から衣替えをしたワンピースの袖を捲って、すぐに目に付いたまな板、包丁、お鍋を配置する。
洗い終えたじゃが芋をまな板の上に置いて、さて、とピーラーを探すけれど、引き出しの中を覗いてみても見当たらない。
「馬木くん」
部屋の扉を開けると、馬木くんはベッドにもたれてテレビを見ていた。
普段は見れない、家でくつろぐ姿が見られて、顔に出さずに心の中でひっそり感動する。
「ピーラーはどこにありますか?」
「何それ」
「皮むきです」
「無いよそんなもん」
「え」
テレビにリモコンを向けて電源を切る馬木くんは、膝に手をついて立ち上がると、私の前を通って廊下に出る。
キッチンに立って袖を捲ると、手を洗い始めた。
私のよりがっしりした手首の骨。
腕には血管が浮き出ていて、男の人だと意識させられる。
「あ――私がやりますよ」
包丁でじゃが芋の皮を剥き始めたのを見て慌てて言えば、真剣な横顔をした馬木くんが目を伏せたまま口を開く。
「いつもはピーター?使ってるんでしょ? 指切られでもしたら、恵子ちゃんちで何やってたんだって親が心配するだろ」
ぴ、ピーターじゃなくて、ピーラーです。
「堀内は他のことしてなよ」
「う、うん。ありがとう」
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