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馬木くんが部屋に戻って、どのくらい経ったかな。
キッチンに、カレーのスパイスの香りが漂い始める。
深いお鍋の中、表面でふつふつ気泡が弾ける度にいい匂いがした。
「っ――あち」
小皿がなかったから、お椀に入れて味見をする。
「大丈夫かな……」
いつも買っているカレー粉。
味に変わりはない筈なんだけど、この味だよね?美味しいよね?と、カレーを煮詰めながら何度も味見を繰り返す。
なんだか、今更ドキドキしてきた。
自分が作った物を家族以外の人に食べさせること自体が初めてなのに、相手は馬木くんなんだもの。
美味しいと思ってもらえますように、と祈りながら蓋を閉めて部屋に入ろうとした。
「――わ」
私がドアノブを握る前に開いた扉。
馬木くんに見下ろされて壁に背中をつけると、通り道を譲る。
馬木くんはキッチンの前を通りながら、
「あ、いい匂い」
と呟いた。
……匂いを褒められたんであって、まだ舞い上がらなくていいから、私。
そう自分に言い聞かせていると、洗面所の方からシャワーの音が聞こえてきた。
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