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「陣内ちゃあぁん、同じのにする?」
爪に真っ赤なマニキュアを施している菜摘ママのごつい手が、俺の空になったグラスへと伸びる。時計の針は午前零時を過ぎたところだ。
「悪い。そろそろ帰るわ」
そう言いつつ足の長い椅子から立ち上がろうとする俺に、ボックス席に座っていた恭子ちゃんが悪態をつく。
「もう帰っちゃうのぉ?全然呑んでないじゃないの。もっと呑んでいきなさいよ」
エレナちゃんが渡してくれた黒のコートを羽織る。
「そろそろ家に帰らないとヤバいんだよ。飯野の奴が此処に怒鳴りこんできそうだからな」
菜摘ママが他の客の水割りを作りながら、わざとらしく大きな溜め息をつく。
「やだぁ、なに?また締め切り前の原稿放っぽらかして仕事場抜け出してきたわけぇ?」
「人聞き悪いな。別に放ったらかしになんかしてねえし。息抜きしなきゃ身体がもたないんだよ」
ヴィヴィアンナちゃんが、クールな笑みを浮かべながらお見送り嬢として俺の隣りにやって来た。スパンコールだのビジューだの、キラキラしたものを散りばめた白のドレスを身に纏ったヴィヴィアンナちゃん。
まるで、ハリウッドのファンタジー映画に出てくる妖精のお姫様のようだ。綺麗な人間に見送られるのは久しぶりだ。大抵、菜摘ママか恭子ちゃんだからな。
今日の客は予想の斜め上をいく風変わりさで、菜摘ママと恭子ちゃんは引っ張りだこなのだ。
……ただなぁ。
ヴィヴィアンナちゃん、本当にデカっ。
俺も177cmと決してそう低くはないと思うのだが。横に並ばれるとなんか凹む。
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