霜月 シャーデンフロイデ

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 少しだけ、話を過去に戻そうと思う。 とりわけこの物語を語る上で重要な時間軸となる部分を先に述べるべきか迷うところではあるのだが、まずはここからだろう。 最も、この話のどこに時間軸を持って来るか、どの話を最初にするかによって、見えてくる景色もだいぶ変わってくるのだけれど。 平成二十二年十一月。 僕が彼女と出会った時の話だ。 ポテトチップスが加速する訳はこの空間に居座り続けなければならない理由と直結しかねるのだが、それでもすでに二袋開けたパッケージが見ていられない。 良い加減テンパイ即リーチの鬱陶しさに嫌気がさして来たわけではなく、食いタンに文句が言いたいわけでもなく、ただ単に雀卓を囲う四人の内三人が喫煙者だったからという素朴な理由だった。 大学四年生の秋ともなれば、手堅く中小企業から内定を頂いていた僕らのやることの無さと言ったらなかった。 暇な時間を埋めるために、友人の借家で朝まで麻雀を繰り返し財布の中身を悪戯に撒き散らすことでそれを紛らわしていたわけだが。 残された卒業論文にはまだ手を付けていないが、一ヶ月も図書館に入り浸れば片付くに違いない。 なにしろ時間だけは有り余っていた。 馬鹿勝ちの零との帰り道、最後の局が焼き鳥だった僕をあざ笑って煙草を一本差し出して来るから、歯を食いしばる。 『禁煙したって言ったろ?』という僕の台詞に『いつまで続くのやら』なんて笑って煙草を咥える零の横でガムを口に含む。 結局ここから半年も続かないのだが、当時僕は本気で禁煙をするつもりでいた。 始発電車に乗り込んで、一人暮らしのアパートへと向かうこの時間は、嫌いではない。 零とは学科は違うが一年の時に授業が同じで出会った。 毎日会っているわけではないが縁が切れることもない妙な立ち位置の友人だ。 そんな寄せ集めの連中と遊んで、帰って、寝て、起きて、昼食をとり、ゼミの課題に手を付け、夜になれば麻雀をして、朝になったら帰って寝る。 ここ最近の一日のスケジュールは、おおよそこんなものだった。
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