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確かに言われてみれば僕は零の事を異性として意識した覚えもないし、彼女の前で格好良くあろうと努力した事もない。
それは零に彼氏がいるから、という訳ではなくて、おそらく彼女に恋人がいなかったとしてもこの事実は不変であろう。根拠はないが言い切れる。
それは好みではないと言う曖昧な表現ではなくて、最初に零に出会った時から今に至るまで、なんとなく性の対象として見ることがあり得なかったと言うのが実のところだ。
「十勝は私のスカートが風でめくれて二度見することはあっても、私と二人きりになって甘い台詞で誘おうとすることはないよね」
「僕に前者の言いがかりの言い訳をさせて貰う資格はないのか」
「ない」
これは正当な戦いではない。決めつけてかかっている。僕に抗う術はなかった。だがそれは置いておこう。ええと、何の話だったか。
とにかく僕は零を異性として口説こうと思った事はない。
「つまりね、そういうこと。じゃあどうして十勝はその女の子に抱いているモノを恋愛感情であると判断したの?その根拠は?証拠は?私に抱いている感情と一線を引いてまったく異なった存在だと証明が出来る?」
僕が真色に抱くこの感情は、本当は恋愛感情でもなんでもなくて、ただ零に抱くような友情を、パラダイムの外側で感じたものに錯覚して取り違えてしまっているだけなのだろうか。
僕は本当に、彼女に幸せになってもらいたいと思った。本気で願って真剣に考えて、そしてずっと想っていた。
結末はあまりにも呆気ない内容であったが、僕は真色と雨宮を恋人同士にして幸せにしてやりたかったのだ。
真色が好きな雨宮。その感情は友情などでは決してない。死にたいと思うくらい胸を痛めていた彼女の表情が目に浮かぶ。そして同時に初めての煙草にむせ返る表情も、追加で思い出されて笑いそうになる。
じゃあ零はどうか。
僕は零に、大宮零子に幸せになってもらいたいと思っているか?
それはもちろんそうだ。僕は零にも幸せになってもらいたいと思っている。零に彼氏と仲良くやって、そしていずれは結婚でもして、幸福な家庭を築いていって欲しいと、本気で願っている。
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