殺人者しか殺さない殺人鬼の少年の話。

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『可哀想だね、君は』 雨の夜に出逢った少女が見せた柔らかな笑みと凹凸がなく平坦だった口調に僅かに込められた鋭利な哀れみは数日経った後も俺の頭と心から抜けることはなかった。 昼休み。俺は学校特有の騒がしさから逃れるようにいつも通り、立ち入り禁止場所である屋上にいた。 立ち入り禁止と張り紙をされている割りには壊れた鍵を直そうとはしない学校側の管理のずさんさに呆れつつも、俺はひとりの空間を保てる場所に安堵しながら、今日も悪気なく利用している。 少し体重を込めて凭れたら容易に落下することが可能なんじゃないかと危惧してしまう程、錆び付いたフェンスに両指を絡ませ、ここから見える景色をただただ眺めていた。 フェンスの向こう側に広がるグラウンドでは、昼休みということもあって、学年問わず生徒達がサッカーしたり、野球したり、その他の競技などで賑わいをみせている。俺はそれを何気無しに眺めた後、空を見上げた。 どんよりとした灰色の雲に覆われた空は、今にも雨が降りそうな雰囲気を漂わせている。 それが記憶の呼び水となったのか、唐突に雨の夜に出逢った少女のことを思い出し、あぁーっと叫びたくなった。
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