7人が本棚に入れています
本棚に追加
「さぁな。一週間前の俺の気持ちなんてわかんねぇよ。今の気持ちだってよくわかんねぇんだ。そもそも理由なんてないのかもしれないし、あったのかもしれねぇ。でも、ひとつだけ言えるとしたら、俺はさ、たぶん、あのおねーさんーーひなたのことがーー好きだったんだよ」
目を閉じてフェンスに凭れる。
そのまま落下するかなぁと、少しだけ期待したが、カシャンと音を奏で小さくひしゃげただけで落ちることはなかった。
電話越しからは小さく『そっか』と、男の声がして俺は、普通の声で肯定する。
一目惚れってやつなんだろうか。それとも、ただ彼女の異常さに自分を重ねただけなんだろうか。はたまた、彼女の死に際に魅せられただけなのだろうか。
詳しいことは俺にはよく分からない。詮索するつもりもない。だって彼女はもうこの世界にはいないのだから。
電話を切って、空を見上げて、雨が降らないかなぁと祈る。
『ひかるくん、君は可哀想だね』
彼女の最期の言葉が聞こえたような気がした。
だから、
「くか、あんたも充分可哀想だな、ひなた」
あの時、君に言えなかった言葉を。
最初のコメントを投稿しよう!